
総勘定元帳や請求書、領収書などの帳簿書類は原則的に紙での保存が義務付けられていますが、特例として電子データでの保存も認められている事をご存じですか?紙による保存コストの削減はもちろん、それ以外にも多くのメリットがあります。
1.電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法とは、紙での保存が義務付けられていた総勘定元帳や請求書、領収書などの国税関係帳簿書類の全部または一部を電子データとして保存する事を認めた法律です。
電子データでの保存(以下、電子保存)を行うためには、保存を開始する3か月前までに税務署に申請をし、承認を受ける事が必要になります。
電子保存をする場合は、帳簿書類によって次の2つの保存方法のいずれかが適用されることになります。
①電磁的記録による保存
電磁的記録とは、「電子データ」を示す法律用語です。電子計算機(「パソコン」を示す法律用語)を使用して作成した国税関係帳簿書類の電子データを、DVDやCD、サーバーなどで保存する方法です。また、マイクロフィルムによる保存も認められています。マイクロフィルムで保存をする場合は保存期間が3年を経過するまで保存に併せて記録事項の検索をする事ができる機能を確保する必要があります。
一貫してパソコンを使用して作成するものに限られるので、手書きの総勘定元帳や現金出納帳などの帳簿は電子保存が出来ません。
※マイクロフィルムとは、一般には書籍や新聞、設計図面などの保存に使用されている写真フィルムです。COMとも呼ばれています。CDやDVDの寿命は10~30年と言われていますが、マイクロフィルムの寿命は100~500年と言われ、改ざんが困難で耐久性も高く重要な情報の安定した保存が出来ます。
②スキャナ保存
①の保存方法とは違い、紙をスキャンして電子データ化したものを保存する方法です。平成17年の電子帳簿保存法の改正により、スキャナ保存制度として導入されましたが、契約書、領収書については、記載された金額が3万円未満のものに限定されており、更には、原稿台がついているスキャナでの読み取りしか認められていませんでした。平成27年度税制改正において、平成27年9月30日以降の承認申請から、上記金額基準は撤廃され3万円以上の領収書等の保存も可能になり、平成28年度税制改正により、平成28年9月30日以降の承認申請からデジカメやスマートフォン等での撮影についても認められる事になりました。
電子帳簿保存法とスキャナ保存制度は言葉は似ていますが違うものです。“「電子帳簿保存法」で規定されている保存制度のひとつが「スキャナ保存制度」”です。間違えやすいポイントなので注意しましょう。
2.電子データによる保存を行うための要件
3.電子データによる保存のメリット
① コストの削減
紙の使用量、コピーの為のインク代、棚、バインダー等のコスト、大量の書類の保存場所、ファイリングに要する作業時間コストが削減出来ます。
② 適切なバックアップで安全に保存できる
紙での保存だと、例えば火事が起こった際に大量の書類を持ち出す事は困難です。焼けて無くなると元には戻せません。しかし、分散管理など適切にデータのバックアップ管理をしていれば、災害にあったとしてもデータを復旧することができます。
③ 業務の効率化
保存場所に足を運ぶ手間、該当ファイルを探し出す手間、そしてそこから見たい書類をめくって見つけ出す手間が必要でした。電子データで保存する事で、検索機能を用いて見たい書類を瞬時に見つけ出す事が可能となります。
4.電子帳簿保存法Q&A
Q1 改正前に申請書を提出していたので、このまま改正後の保存方法を適用してもいいですか?
A1 認められません。既に承認を受けている場合でも再度「申請書」の提出が必要になります。既に承認を受けている書類であっても、平成28年9月30日以後に「申請書」の提出をして承認を受けなければ、従来の要件で保存しなければなりません。ただし、「取りやめの届出書」の提出は必要ありません。
Q2 スキャン文書の保存により消費税の仕入税額控除は認められますか?
A2 認められます。消費税法では書類の保存について以下のようにされています。
“仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れの事実を記載した帳簿の保存に加えて、請求書、領収書、納品書など取引の事実を証する書類も併せて保存することとされています。”(国税庁HP 引用)
この請求書等は「国税関係書類」に該当するので、事前に承認を受けてスキャナ保存している場合には、消費税法第30条第7項に規定する請求書等が保存されていることとなります。
Q3 1年分をまとめて電子帳簿保存する方法は認められますか?
A3 認められません。電子帳簿保存開始の日から取引内容を順次記録し、ディスプレイの画面及び書面でいつでも出力できる状況にしておかなければなりません。
まとめ
近年の改正により、要件が緩和され、導入しやすい制度となってきています。しかし、内部の体制作りや使用ソフトの準備、申請書の提出等様々な課題があります。その課題のうち、私たち税理士の関与で解決できる課題もあります。スキャナ保存の要件のひとつ、「適正事務処理要件」の中の定期的なチェックは、顧問税理士に委託する事で社内での内容確認が不要となります。そのため、例えば1人で事業を営んでいる方も、国税関係書類の読み取り・確認・タイムスタンプの付与を自身で行い、定期的なチェックは顧問税理士に依頼することで適正事務処理要件を満たせるためスキャナ保存を行う事が出来るようになります。税理士も電子帳簿保存法に関してたくさん勉強をしています。電子データによる保存制度の導入やチェックの依頼など、小さな事でもかまいません。まずは専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
参考
申請書様式一覧(国税庁ホームページ)
4-1 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6001.pdf
記載例:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6001_kisairei.pdf
4-2 国税関係書類の電磁的記録等による保存の承認申請
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6002.pdf
記載例:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6002_kisairei.pdf
4-3 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6008.pdf
記載例:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6008_kisairei.pdf
4-4 国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の電子計算機出力マイクロフィルムによる保存の承認申請
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6003.pdf
4-5 国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等の取りやめの届出
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6004.pdf
記載例:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6004_kisairei.pdf
4-6 国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等の変更の届出書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6005.pdf
記載例:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/pdf/6005_kisairei.pdf